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2022年 4月 26日
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バックグランドストーリーズ: ANTIBODIES Collective

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過去のフェスティバルで収録されたパフォーマンス映像をアーティストのインタビューとともに公開するこのシリーズの第2弾は、ANTIBODIES Collective。舞踊家・東野祥子と音楽家・カジワラトシオを基軸として京都を拠点に活動するパフォーマンスアーティストコレクティブである彼らは、複数人のパフォーマー、ダンサー、実験音楽、美術、映像、特殊装置など、さまざまな要素が有機的に関わり合う総合舞台芸術作品を発表しており、現代社会への問いかけをダイレクトに創作へと結びつけた表現、観客との関わり合いを試みた回遊型の演出等で知られています。また、昨年には独自のメディア「ANTi-V」を立ち上げ、映像や音楽、トークなどのコンテンツを発信しています。

MUTEK.JP 2021では、持続性の概念と相反した経済システムという絶望とその闇の深部にある「出口」を見つめることをテーマにした『あらゆる人のための、誰のためでもない世界』の劇場版をLINE CUBE SHIBUYAにて発表しました。前衛的でエキサイティグなサウンドと、個々のパフォーマーそれぞれから発せられるストーリー、躍動的な全体の展開、意味深なスポークンワード、奇妙な動くオブジェ、工夫を凝らした映像演出などで、驚きと興奮、心を揺さぶられる瞬間を観客にもたらしました。

そんな彼らにその時のパフォーマンスについて話を伺いました。以下に紹介するインタビューとともに、約1時間に及ぶアーカイヴ映像をご覧ください。

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(画像をクリックするとパフォーマンス映像がスタートします)

アンチボといえば、本作の初演も然り、会場の至る所でパフォーマンスが行われ観客が歩き回って遭遇した場面を鑑賞するという「自由回遊型」の演出スタイルで近年知られていますが、今回上演した会場のLINE CUBE SHIBUYAはステージと観客席という従来の劇場空間でした。そんな中で、巨大なオブジェクトが観客と接点を持つ仕掛けも見られましたが、観客と作品との関わり合いをどのように捉えているのでしょうか。今回の空間形式でやって難しかった点はありますか?

コレクティヴというのは、全ての参加者がそれぞれのフォーカスや鍛錬を持ち寄り、そこで産み出される共振現象と、その社会的な役割を探求する場所だというのを、アンチボの活動原理として掲げているんです。回遊型の演出は、そのようなポリフォニックな在り方、その可能性を表現していると思います。

東京の市街地を舞台にした「A界隈」というANTIBO初期の市街劇の公演を行なった際に、数百人規模の観客を劇場の外に分散し、誘導しながら、合法と非合法、公共と私有の境界線を身体であぶり出す演者たちのパフォーマンスを目撃して頂くという試みに挑戦しました。舞台作品という構成された時間軸の中で観客の能動性や事象の偶然性を最大限に引き出す実験的検証だったと思います。その体験を元に、独自の回遊型演出の方法論が立ち上がりました。

普段の空間作りは各セクション、それぞれが様々な実験をする場所であります。美術も至る所にあり、可動式であったり、連れて行かれたりと、場所によって観客の体験も観れるものも違います。音響に関しては、空間を考慮した立体的なマルチサラウンドを構築してあるので、観客が能動的に動いて作品鑑賞することで成り立つ公演となっています。

今回は完全なる額縁的な立派な舞台で、演目の前にセットの転換もあり、時間のない中での作品の上演でしたので、かなり厳選した美術と映像で舞台を再演出するということで、最初は結構悩みました。

この作品も2020年12月、城崎アートセンターでのレジデンスにてWork in Progressを行った際に骨格が生まれ、それを2021年に京都の野外劇場、映像配信、巨大工場での本公演と創作を続けてきた作品でしたので、それぞれの場所で形を変えて上演してきた経緯もあり、劇場の機構に合わせたサイズに作り替えたり、新しくシーンを創作する作業に苦労しました。

オブジェが舞台上で大きくなって観客を飲み込むような演出は、劇場では危険を伴うことを懸念して許可が出ないことも多く、最終的にその演出が実施できたことは、主催のMUTEKや舞台監督、劇場の方に感謝しています。

客席の中央後方にあるブースではカジワラトシオさんがモジュラーシンセなどの機材に囲まれて音を出していました。舞台作品のストーリーや展開が最初に決められ、それらのシーンに合わせて音が作り込まれ、また即興で演奏されていたのでしょうか?

今回は迷っている時間がないことがわかっていたので、かなり厳密に構成を決めてありました。もちろん創作してきた本来の作品があるので、群舞シーンなど同じ演出で行けるところはその楽曲を使う部分もありましたが、このMUTEKバーションでは構成上シーンを新しく作らなければならなく、カジワラは多くの曲を創作しています。事前にモジュラーシンセを使った下地になる楽曲を作り、それをベースとして使いつつ、現場の空気や即興的な感覚でテープやシンセを使ってライブ演奏していました。毎回違う音が入ってきたり、タイミングが違っていたり、ダンサーはそれに反応しなければならず、ヒヤヒヤすることも多々あり大変なのですが、そこが緊張感を生み出している所でもあります。

ダンスや演劇、音楽に加えて、動く装置や映像などのメディア技術を取り入れ、それらが絶妙に融合した作品を作られています。どのような過程を経て「総合舞台芸術」という形に行き着いたのでしょうか?

語ればとても長くなりますが、2000年に母体となる「Dance Company BABY-Q」という団体を、振付演出を行っている東野祥子が立ち上げました。その頃からダンスが主軸の作品の中にも音楽や映像、ロボットや美術などを盛り込んだ要素の多い舞台芸術作品を発表していました。結成初期から関わっていた映像作家のROKAPENISや、美術のOLEO、その他のダンサー数名などは今も一緒に活動しています。2009年より現演出・音楽のカジワラトシオが加わり、作品が社会性の強いものに変わっていきます。国内だけではなく、海外での作品発表も多く行っていました。

2012年、震災の時にアーティストコレクティブとしてANTIBOの構想が生まれ、2015年の別府芸術祭にて新しく「ANTIBODIES Collective」として活動を開始しました。それ以降、さまざまなジャンルのメンバー、パフォーマー、音楽家、映像作家、美術家以外にも、変わったところでは火を使うアーティストやプログラマー、華道家や発明家なども活動に関わり、大きな団体と成長しています。

作品創作の最初に、演出の要であるカジワラトシオが、土台となるテーマやコンセプトを立ち上げ、言葉や文章を紡ぎ出しそれをみんなで共有し、作品の根幹を理解していきます。そして各セクションが最大限の効果を生み出す実験や研究を行い、化学反応を起こしながら舞台作品と昇華していきます。回遊型の作品は結局、観客が舞台空間に登場しないと始まらないので、観客の行動は空想の上で創作します。

舞踏家の土方巽や芸術家のヨーゼフ・ボイスといった著名人と並行してホームレスが死亡した日が朗読されたシーンはかなり不気味でした。またコムアイさんによる朗読も社会に問うメッセージが含まれていました。ダンサー / パフォーマーのみなさんの表現からもさまざまな感情があるなかで不穏さが強く印象に残っています。アンチボの活動において、社会と芸術の関係性はどのようなものですか?

私たちの活動理念に、

「芸術と生活、記憶と歴史、そして個人と社会の新しい関係性を探求する様々な分野のスペシャリストたちの集合体として結成されて以降、国内外における舞台作品の上演やワークショップといった活動を続けている。様々な鍛錬や境界がダイナミックに関わり合うコラボレーションの形態を発展させていくための環境を創り出し、そこに蓄積された体験をパフォーマンス・イベントの主催、コミュニティー・ワークショップやアウトリーチといった行為へと結び付けていくことで、舞台芸術やパフォーマンス・アートに関わる様々な人材とその叡智を、市民社会や教育、福祉の現場へと接続していくことを掲げている。」

というものがあります。

私たちは、作品を作る際に、社会生活の中で非日常を垣間見るその瞬間に、虚構(舞台)と現実のその境界線はどこにあるのかがわからなくなるような事象を紡ぎ出し、その上で、

◆ 我々はどのようにパフォーマーとしての自分自身と向き合い、社会との関係性を築いていけば良いのか?

◆「公共性」とは一体何なのか?

◆ 秩序の裏側には何があるのか?

◆ 強化される監視社会のもたらすものは何なのか?

◆ なぜテクノロジーの驚異的な進歩と相反するように、世界は虚偽にまみれ、絶望しているのか? 

◆ 個性を主張し、差異を際立たせようとすればするほど、ムード的なものが蔓延し、社会から遊離していくのは何故なのか? 

などといった様々な作品ごとのテーマに沿った「問い」を抱きながら、現社会で起こっていることと私たちのそういった問いかけを作品の一部に結びつけ、それぞれのメンバーが責任を持って各パートを担い、ワークインプログレスをしながら創作を行います。

そういった創作の過程があることで、出来上がってきた作品が社会の中に散らばっている要素と結びつき、観るものに違和感を感じたり、掻き乱したり、感動したりするのだと信じて創作活動を行なっています。

MUTEK.JPでのパフォーマンスを終えて、どうでしたか? ANTi-Vでもこの収録動画を公開していますが反響などありましたか?

MUTEK.JPでの招聘は、舞台業界とは違った観客層で、社会での立ち位置が私たちの感覚と近い方々も多く、その表現に含まれる不穏さに共感を得られた方も多くおられたと感じます。劇場に来れなかった方も、初めてANTIBOを観る方も、今回のMUTEKでの公演映像を観て頂けたことで、新たな取り組みを行なっている私たちの活動を知っていただけたことはとてもありがたいと思います。

ANTIBOのファンの方からは、「意外だったけれども落ち着いてじっくり観れるというのもとてもよかった」というような感想が多数寄せられ、またメンバーやスタッフからも劇場の機構を上手く使うことで可能性が広がるような色々な発見があり、今後、劇場公演や海外ツアーなども検討できるようになったのは大きな収穫だと感じています。

近々の予定があれば教えてください。

まもなくANTi-Vでの新たなコンテンツの公開を行います。公演活動としては11月に兵庫県淡路島の4000平米の巨大タイル工場にて新作のクリエーションを行う予定です。また、面白いベニューを開拓します。

ぜひ一度回遊型の公演にもおいでください。その場所に行って体験するという、この2年ほどコロナ社会に閉じ込められ、忘れそうになっている感覚を呼び覚ませていただけたら本望です。

Interview conducted by Midori Hayakawa

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